素粒子と物性の対話

 

物性物理は、固体中の粒子の多様な振る舞いを、次々と明らかにしていくという形で発展を遂げてきた。

一方素粒子の世界は、(私の勝手なイメージだと)よりシンプルで統一的な理論を目指す方向を常に向いている。

物性物理がほんの小さな結晶の中、目に見えないほど小さな場所で多様な世界をみるのと比べて、

素粒子物理は宇宙という、目に見えないほど大きな世界を支配する原理を追求する。

 

そんな、目標も対象も全然違う物性と素粒子には、場の理論という共通の言語があって、

両者を繋ぐ、様々な興味深い扉が発見されてきた。

今回は、物性と素粒子を繋ぐ世界について、少し紹介してみたい。

 

 

超伝導とヒッグス機構

物性物理が素粒子物理を大きく展開させた重要な歴史に、物性物理で度々議論されてきた自発的対称性の破れを、質量の生成に取り入れた経緯がある。

 

自発的対称性の破れ

床にペンを立てることを考えてみる。まっすぐ立った状態のときは360度どの方向に対しても同じ状態で、対称性が保たれている。
でも、どんなに丁寧にそっと置いたって、普通ペンは倒れてしまう(床に突き刺さったりしていなければ)。その方がずっと安定だからだ。ペンは右を向くかもしれないし、左を向くかもしれない。

対称性の守られた状態(左)と対称性が破れた状態(右)

このように、系の状態が、いくつもの縮退した最安定状態のひとつをとるとき、対称性は自発的に失われる。

対称性の破れは強磁性体の相転移など、固体物理では重要な概念であったが、大きな盛り上がりを見せたのは超伝導を説明するBCS理論である。

 

バンド構造

BCS理論について話す前に、固体を理解する考え方の基本方針について、ちょっと話したい。

固体の様々な性質は、電子がどのようなエネルギー状態を取ることが可能で、そのうちどのエネルギー状態を占有しているかということで説明される。

「電子が取りうるエネルギー状態」は、正確には、あるエネルギーの状態を何個の電子が占有できるか、というもので、状態密度という名前がついている。状態密度は固体の対称性などから計算される。

電子はフェルミオン(同じ状態を占有することができない粒子)であるから、固体を構成する各原子の持つ電子が、エネルギーの低い順から状態密度を埋めていく。
状態密度をエネルギーで積分すると、バンド構造(分散関係)がわかり、電子の状態とエネルギーの関係を知ることができる。

電子を下から埋めていった一番上のエネルギー準位をフェルミ準位(フェルミ面)というのだが、このフェルミ準位に引っかかっている電子の状態を特定することが、固体の性質を知る上でとても重要になってくる。

 

BCS理論

金属中のイオンも空気中の分子と同じで、温度が高いと動きが激しくなり、散乱によって自由電子は動きにくくなる。だから金属は低温の方が抵抗率が低いのだが、ある温度以下で突然金属抵抗がゼロになるというのが超伝導だ。超伝導は20世紀初頭に実験的に発見された。

長い間誰もその理論的な説明ができなかったのだが、1957年、3人の物理学者が BCS  (Bardeen, Cooper, Schrieffer) 理論を打ち出すことになる。

 

クーパー対

BCS理論の最初の重要なステップは、フェルミ面上の金属電子に引力相互作用が働くとき、電子対の束縛状態が形成され、それによりフェルミ面の再構成がおこるという展開である。

実際、スピン一重項を仮定し、重心が静止した2つの電子(波数とスピンがそれぞれ逆の電子対)に引力が働くとすると、

フェルミ面の状態密度を N(0), デバイ周波数を\( w_{D}\)(\( \hbar w_{D}\)以上のエネルギーの電子を考慮するというような、切断周波数), 引力の大きさを\(V\)と書いて、ポテンシャル\(\delta E\)は

$$ \delta E ≈ −2\hbar w_{D}\exp{( −\frac{2}{N(0)V} )}$$

のように表されて、負(束縛状態)となる。(参考)こうして生成されるのが時間反転対称な電子対で、クーパー対である。

クーパー対をつくる2電子

実際に、フェルミ準位近傍の電子には引力がはたらくことがわかっていて、

その由来は電子格子相互作用という、電子とフォノン(結晶格子の振動モード)の相互作用にある。電子がフォノンを吸収したり放出したりする過程のなかで、2つの電子間に引力がはたらく。

こうして生成されたクーパー対は、新たな粒子として、フェルミオンである通常の電子とは異なった振る舞いを示す。

 

対称性の破れとボーズ凝縮

さて、少々専門的な内容になるが、こういった前節の状況を、BCS理論では第二量子化(場の量子化)という手法で記述し理解し、

電子の生成消滅演算子をクーパー対の生成消滅演算子に書き換えてハミルトニアンを定義する。

数式は教科書を参照ということで省くが、重要ないくつかの帰結は以下のようなものだ。

まずクーパー対はボース粒子(同じ状態を何個でも取りうる粒子)として振る舞い、粒子数不定の基底状態をとる。

またBCS状態はゲージ対称性が破れた状態になっており、

これは例えばすべての粒子の位相が一定になるという条件として現れている。つまり、どの位相も縮退しているのだが、実際には確定したあるひとつの位相に揃うという点で、対称性が破れている。

 

さらに、BCS状態の固有エネルギーには有限のギャップ関数が出現する。

通常の金属の線形分散が波数ゼロ近傍で変形し、ギャップが開くのだが、

この式は後ほど紹介するディラック粒子の質量項と、非常によく類似している。この点に着目し、超伝導の理論から素粒子の世界にアナロジーを広げたのが、南部理論だ。

 

南部理論とヒッグス機構

さて、素粒子論に関しては自信のない部分が多いので本当にざっくりとした話になってしまうけれども、

これまでの話を質量の話に応用するため、BCS理論と同じようなやりかたで、回転対称性を持つ真空のスカラー場に長距離力(ゲージ場)を導入する。

超伝導で、電磁力という長距離力がほとんど磁場の侵入を許さない短距離力に変わったように、ゲージ場を導入した真空が短距離力、つまりノンゼロの質量を持つようになる。

質量の起源は真空に広がるヒッグス場と粒子との相互作用で、真空は一種の超伝導状態にある、と考えられている。

 

 

物性と素粒子との間で

超伝導とヒッグス機構、そして物性分野での相対論的粒子とトポロジーの概念について紹介してみたが、

素粒子分野と物性分野の交流は他にも様々あり、これからも展開していく。

 

例えば、物性物理の分野で実際に発見されている、

連続的な位相の配向で定まるトポロジカルな性質が磁性スピンで実現されたスキルミオンや

粒子と反粒子が同一となるマヨラナ粒子、

近年磁性トポロジカル絶縁体や MnBi2Te4 という反強磁性体において実現可能とされているアクシオン絶縁状態。

これらはすべて、もともとは素粒子の分野で予言されていたものたちで、

たとえばアクシオンは暗黒物質の候補、幻の粒子である。

 

 

扱う対象も、スケールも、方向性も大きく違う分野で、同じ顔が見え隠れする。

二つの異分野を支配する共通のルールの発見は、

シンプルにとてもわくわくすることだ。

 

もっと勉強しなきゃなあと、つくづく思うのだった。。。。。

 

参考文献

[ 超伝導 ]
家泰弘 (2005), 超伝導 朝倉物性シリーズ

青木秀夫, 日本物理学会誌, 64, 80 (2009)

[ Higgs機構 ]
http://osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/handai-honor07/

 

 

 

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2 thoughts on “素粒子と物性の対話

  1. Y

    はじめまして。素敵なブログ、楽しく読ませていただいてます。

    早速、口うるさくて申し訳ないのですが、BCS理論の冒頭のところで、
    > だから金属は大抵高温の方がよく電流を流すのだが、
    は抵抗の温度依存性とは矛盾しているように思えますが、いかがでしょう?
    何か違うことを意図していたらすいません。

    今後も楽しみにしています。研究の方も頑張ってください!

    1. Reika Post author

      はじめまして。
      仰るとおりで、逆ですね汗ご指摘いただいてありがとうございます。
      温かいコメントもいただいて、とても嬉しいです。
      今後とも、頻度は多くないかもしれませんが、更新していけたらと思いますので、
      どうぞよろしくお願いします♪

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